「アダム・ティックル/Adam Tickle」さんインタビュー

「ヘルシンキ・プレイグラウンド」。最近、日本の雑誌にも登場したりと何かと話題になっているその名前を、どこかで耳にしたことがあるでしょうか。今回ご縁があって、フリーデザインとヘルシンキ・プレイグラウンドとのコラボレーションアイテムの製作が実現しました。コラボの理由のひとつが、彼らの活動内容や想いに私たちが強く共感したから。そんなストーリーをフリーデザインのお客さまにも知っていただきたく、今回ファウンダーであるアダムさんにお話を伺いました。

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イギリス出身のアダム・ティックル氏が立ち上げた、フィンランドの首都ヘルシンキを拠点に活動するブランド。「フィンランドのクリエイティブ都市であるヘルシンキを取り巻く点と点、人と人、過去と現在を繋ぐ」ことをミッションとして、精力的にグッズ製作、アーティストやブランドとのコラボレーション、イベント主催などを行なっている。

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ヘルシンキ・プレイグラウンドが、最近フィンランドだけでなく日本のアンテナの高い人たちの間でも話題です。まず、活動内容について教えてください。

ヘルシンキ・プレイグラウンドは、コミュニティ主導のブランドです。ロゴ入りグッズやコラボアイテムといったモノをつくり、イベントを開催することで、フィンランドのクリエイティブシーンについてのストーリーを伝えています。また、僕の古くからの友人、そして最近できた新しい友人とコラボレーションをしてプロダクトをつくることで、その新旧の友人同士が出会える場をつくる、というのも活動の目的のひとつです。

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ヘルシンキ・プレイグラウンドの活動を始めたきっかけや、そこに込める想いを教えてください。

僕自身が外国人としてヘルシンキにやって来たばかりのとき、ここに住む人たちに出会い、フィンランドに馴染みたいと思ったことが、そもそものきっかけですね。そうして輪を広げていくうちに、ヘルシンキでつくり上げたコミュニティを外へ、世界へ発信したいと思うようになりました。ヘルシンキ・プレイグラウンドは、今現在活動している、フューチャークラシックをつくっていくアーティストを大切にしています。現在日本の多くの人に愛されている、フリーデザインでも取り扱っているような北欧デザインは、「アラビア/ARABIA」や「イッタラ/iittala」の定番品、リサ・ラーソンなど、過去のデザイナーが出掛けたものが多いですよね。僕たちは、そういった過去の著名アーティストや作品をリスペクトしつつ、未来に繋いでいくことを目指しています。そんな活動こそが、ヘルシンキ・プレイグラウンドが掲げる「フィンランドのクリエイティブ都市を取り巻く点と点、人と人、過去と現在を繋ぐ」というミッションが意味することなんです。

マリメッコとのコラボシャツ/Photo : ©Samuli Vienola

アート&クラフトフェアの様子/Photo : ©Henri Vogt

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これまでどんなコラボレーションやイベントをしてきたのでしょうか?

2023年6月にヘルシンキの「コモン/Common」というショップで開催したポップアップイベントを皮切りに、たくさんのコラボレーションをしてきました。例えば「マリメッコ/marimekko」とコラボレーションし、旗艦店であるエスプラナーディ店でローンチイベントを行いました。1956年から人々に愛され続けているフィンランドの歴史的デザインアイテム「ヨカポイカ」シャツに特別なプリントをしたものを数量限定で発売したのですが、ありがたいことにすぐに売り切れてしまいました。今年の夏にはヘルシンキの人気カフェ「ウェイベーカリー/Way Bakery」とコラボして、ヘルシンキで活躍するセラミックアーティストを中心に集めた「セラミック&クラフトフェア」を開催し、たくさんの人が訪れてくれました。その後もヘルシンキ発のアパレルブランド「ジーンズ&タオルズ/Jeans & Towels」、ニューヨークで注目のインテリアスタジオ「ライケン/LICHEN」とのコラボイベントなどもしましたが、イベントのたびに再認識するのは、「モノ」はただ人を繋ぐツールにすぎないということです。同じモノに惹かれる人たちが集まり、フィンランドのデザインやクリエイティブシーンについて語り合うきっかけをつくるんですよね。

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コラボ相手は、どのような基準で選んでいますか?

僕自身、長年ファッションやライフスタイル業界でクリエイティブディレクターとして働き、数多くのコラボレーションプロジェクトを手掛ける中で、そのインパクトの大きさを学んできました。ヘルシンキ・プレイグラウンドがコラボする相手は、大きく分けて2種類だと思っています。ひとつめは、「マリメッコ/marimekko」などといった影響力の大きいブランド。そしてもうひとつは、アーティストやローカルファッションブランドなどといった草の根(グラスルーツ)の人たちです。そのどちらの属性であっても、コラボ相手を選ぶときの基準は、ヘルシンキ・プレイグラウンドのミッションを一緒に増幅できて、いい関係性を保て、一緒にプロジェクトを進めていて心地いい人たちであることです。そうやって自分の心や感性に従って選んでいますね。

ヘルシンキ・プレイグラウンドのグッズ/Photo : ©︎きつね

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ヘルシンキ・プレイグラウンドといえば、太陽のロゴがとても印象的です。そこに込めた想いについても聞かせてください。

日本では少し違うのかもしれませんが、僕自身を含むヨーロッパの人たちにとって、フィンランドは「北の方にある暗い国」というイメージがとても強いです。実際、夏の明るい季節は3ヶ月ほどしかなく、それ以外は太陽があまり出ない、暗くて寒い日々が続きます。だからこそ、そんな暗い時期にフィンランドを光で照らし、喜びを与える存在になりたいという想いを込めました。

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ヘルシンキ・プレイグラウンドのメンバーには、どんな人たちがいますか?

オープンマインドで、好奇心旺盛で、クリエイティブな人が多いですよ。職業も、アーティストやデザイナー、クリエイティブディレクター、DJ、レストラン業界の人たちなどさまざまです。ヘルシンキ・プレイグラウンドのファウンダーは僕ですが、何人で運営しているというようなものではないんです。例えば今回のコラボを通じて、フリーデザインのオーナーのおふたりも一緒にヘルシンキ・プレイグラウンドをつくり上げるチームの一員になった、というふうに僕は感じています。一緒にプレイグラウンドにいる、そんな感覚です。なのでメンバーというと、今までヘルシンキ・プレイグラウンドに何かしらの影響を与えてくれた人たちが浮かびます。最初は友人として出会い、その後プロジェクトを通じて一緒にヘルシンキ・プレイグラウンドをつくり上げてくれている人たちですね。ヘルシンキ・プレイグラウンドの太陽ロゴをあしらったバッジをつくって、彼らに渡しているのですが、それは会員カードのような役割を果たしていると思っています。今までヘルシンキ・プレイグラウンドと一緒に何かをつくり上げてきました、という証のような。今回フリーデザインでこのバッジをもらった方も、このムーブメントの一員になったと感じてもらえたら嬉しいですね。

Helsinki Playground×free design オリジナルバッジ

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今度は、アダムさんご自身のことについて教えてください。アダムさんがフィンランドに住もうと思ったきっかけはなんですか?

妻のアンニカがきっかけです。彼女とはロンドンで出会い、僕の仕事の都合でスウェーデンのストックホルムに一緒に引っ越しました。その後、アンニカがフィンランドのムーミンアラビアで働くことになったので、ヘルシンキに住むことに決めました。

アダム・ティックル/Adam Tickleさん/Photo : ©︎きつね

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アダムさんはイギリス出身ですが、どのようにフィンランドのデザインや文化と出会いましたか?

アンニカと出会ったのは28歳の頃ですが、彼女の影響で北欧デザインにも出会いました。その前からミッドセンチュリーの北欧家具が大好きで、よくフリーマーケットをまわっていました。今も、休日にフィンランドのフリーマーケットをまわるのが趣味のひとつです。

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アダムさんは、ヴィンテージアイテムなど古いものを大切にしていると思います。お家にはどんなものがありますか? また、家とはアダムさんにとって、どういう場所ですか?

家には、ヴィンテージやデザインアイテムがたくさんあります。ロンドン、ストックホルム、そしてヘルシンキといった今まで住んだ街で出会い、何年もかけて少しずつ集めてきた思い出深いものたちです。時として古いものは、新しいものよりも質がよく、新しいものにはない物語がありますよね。そういったストーリーのあるヴィンテージアイテム、特にフィンランドのデザインアイテムが好きです。ヴィンテージの「アルテック/Artek」のテーブル、スツールなどもコレクションし、日常的に愛用しています。そんなお気に入りのモノたちに囲まれた家は、僕にとって「安心できる場所」です。

ポップアップイベントでヴィンテージコレクションを販売している様子/Photo : ©Henri Vogt

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日本とアダムさんの間に、デザインや文化、人々のライフスタイルで共通点を感じることはありますか? また、日本のどんなところが好きですか?

10年以上前に、ロンドンにある「グッドフッド/Goodhood」というファッション・ライフスタイルのセレクトショップで、アートディレクターとして働いていました。そのときに、「ジュンヤ ワタナベ/JUNYA WATANABE」や「ネイバーフッド/NEIGHBORHOOD」といった日本のブランドに出会いました。雑誌「ポパイ/POPEYE」や「ビームスアットホーム/BEAMS AT HOME」といった日本の書籍も取り扱っていて、僕が日本のファッションやライフスタイルのメディアに触れるようになったのは、その頃からなんです。それらを愛読し、日本のカルチャーを長年吸収し続けています。当時買った本は、今でも自宅の本棚に大切に飾っていますよ。僕が日本のファッション・ライフスタイルで一番興味深いと思うのは、「日本が解釈した海外のもの」です。たとえば、日本が解釈したアメカジとか、そういったものがとてもおもしろいです。そして日本のデザインで僕が大好きなのは、細部までこだわる、執着ともいえるぐらいの情熱です。オタクのように突き詰める精神、というか。僕もファッション・ライフスタイルに関してはオタクなので(笑)長年かけて吸収してきた日本のそういった精神が、今、ヘルシンキ・プレイグラウンドのグッズ製作にも役立っているんじゃないかなと思っています。

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では、アダムさんが日本とフィンランドの間に感じる共通点はありますか?

日本とフィンランドの共通点はたくさんあると思っていて、例えば人々についていうと、最初は少しシャイですが、その壁を破ってさえしまえば、とてもやさしいおもてなしの心を持っているところですね。あとは、自然をリスペクトして、感謝して、共存しているところ。人と自然の関係性も似ていると思っています。他にも、日本の温泉、フィンランドのサウナのどちらも、どこか儀式的なところがあって似ていますよね。もっと身近なところでいえば、室内で靴を脱ぐところも同じです。イギリスでは、カーペットやソファの上でも靴を履いたままなんですよ。僕はもうその生活には戻れないですね(笑)

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アダムさんにとってのフィンランドとは、そして日本とは、どんな場所ですか?

フィンランドは僕にとってのホームで、とても特別な場所です。日本でも新しい人にたくさん出会って、友人も増えてきて、旅行先ではあるけれどよく知っている場所に戻っているような、セカンドホームのような気持ちが芽生えてきています。

free design 吉祥寺店の店内

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アダムさんは以前、フリーデザインに来てくださったそうですが、印象や共感したことなどがあれば、教えてください。

今年の2月に家族で日本旅行をしたときに、吉祥寺を訪れ、フリーデザインのお店に遊びに行きました。商品の陳列方法などのプレゼンテーションが美しく、キュレーションがいいですね。何より、北欧デザインへの賞賛が感じられる雰囲気が素晴らしかったので、自己紹介がてらヘルシンキ・プレイグラウンドの缶バッジを店員さんにお渡ししました。それがオーナーである井川さんと伊藤さんの手に渡り、ご縁があって、今回このようなコラボレーションが実現したことを嬉しく感じています。

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「キントー/KINTO」の製品は、前から知っていたのですか?

ロンドンに住んでいた頃から知っていました。ヘルシンキの「コモン/Common」でも取り扱っているし、とても興味がありました。前回日本に行ったとき、中目黒にあるキントーのフラッグシップストアにも訪れたほど好きなんです。今回「キントー/KINTO」のコラボ商品をつくれることが、とても嬉しいです。

Helsinki Playground×free design ウォーターボトル(キントー/KINTO)

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今回のコラボ限定の、特別カラーの缶バッジ・ステッカーもデザインしていただきました。この色の組み合わせに込めたイメージや想いについて教えてください。

今回ウォーターボトルは2種類のカラー展開ですが、そのうちのひとつにグリーンを選びました。「ツリー/tree」のデザインも森をモチーフにしたものなので、自然と緑色を取り入れようと決めました。また、過去のグッズに使ったことのない色の組み合わせにして、特別感のあるものにしたいと思いました。

ガラスに絵を描くフレドリック/Photo : ©Henri Vogt

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今回のコラボ商品のデザインに込めた想いを教えてください。

「ツリー/tree」は、フィンランドの夏の森をイメージしたデザインです。今年の夏、家族とたくさんの時間をサマーコテージで過ごしました。このウォーターボトルのデザインを考えたときも、その白樺と松の木に囲まれた、森の中にあるコテージで過ごしていたので、そこからインスピレーションを受けました。イラストを担当したのは、ヘルシンキ・プレイグラウンドのに関わる多くのデザインを担当している、友人のフレドリックです。「サン/sun」は、ヘルシンキ・プレイグラウンドのメインロゴです。今はネット社会なので変わってしまいましたが、1990年代~2000年代は、街角で同じブランドやバンドのロゴTシャツを着ている人を見ると、同じクラブに所属している仲間に出会えたような気持ちになりませんでしたか? そんな風に、このウォーターボトルを使っている人にどこかで出会ったときに、その共通点から何か会話が始まったりする、そんなきっかけとなるアイテムになれば嬉しいなと思っています。

サマーコテージからの景色/Photo : ©Adam Tickle

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今後、ヘルシンキ・プレイグラウンドでやっていきたいことはありますか?

フィンランドでも日本でも、コミュニティを築いていきたいです。そして、こういったコラボレーションプロジェクトを続けて、もっと多くの新しい人たちに出会いたいですね。

いかがでしたでしょうか。アダムさんのフィンランドへの愛やクリエイティブシーンへの想いが詰まったヘルシンキ・プレイグラウンドの活躍から、今後も目が離せませんね。

テキスト:きつね
東京都出身、2019年よりフィンランド在住。フリーランスのライターやバイヤー、コーディネーター等として日本とフィンランドを繋ぐ活動をする傍ら、自身のウェブメディアやインスタグラムでフィンランド生活やおすすめカフェなどについて発信している。お日さまとコーヒーと深夜ラジオがすき。

Website:https://lalafinland.com/
Instagram:@lalafinland

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